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株式会社えとじや

マーケティングなんでも相談所

他人にものを頼むのなら
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他人にものを頼むのなら

文 岡本晋介・写真 中村年孝

 ちょっと立ち止まってこれを考えてみると、案外見えてくるものがあると思います。
 アウトソースすることの利点、まで広げてしまうと、話がでかくなって、私の手に負えなくなるし、そんなことは書けませんが、例えば、発生する費用や投資のリスクを回避したり資産の効率化をはかったり、あるいは制作・生産コストを抑える、とかあると思います。
 でも、きっともっと大切なことは、自分(や自分の会社)にはない、クリエイティビティーと、経験と知識とネットワークの蓄積を利用するため、なんじゃないでしょうか?
 わかりやすく言うと、自分にはできない、か、自分でやるよりずっといいものができるから、その道のプロに頼む、ということです。
 相手に対するリスペクトを、とかいう、精神論だけを話してるわけではありません(それも大切ですが)。

そもそも、なぜ、他人に頼むのか

 まず、ここで、あなたがはっきりさせるべきは、「自分でやれば、いいものができる、または、出来上がりのイメージがはっきりしていて、それさえ手に入ればいい、けれども、それを自分でやる時間や技術や資産がないので、他人に頼む」のか、「自分には思いつかない・作れないソリューションが欲しいので、他人に頼む」のか、です。
 前述したように、たいていは後者ですが、別にクライアント・発注者がクリエイティブ(創造力がある)であってはいけない、というルールはないので、前者でもかまいません。
 ただし、その場合は、ちゃんとそのように相手に頼む、ということが大切です。
 そして、相手が別案「も」出してくれることを期待するのか、それは「大きなお世話」なのか、もはっきりさせる。
 「なんかいいもの持ってきてよ」と口では言っておきながら、自分のやりたいことははっきり決まっていて、会議を重ねながらそれに近づいてくるまで、ねちねちと相手を「誘導」していると、受注側のやる気は地中深くにもぐってしまいますので、時間とコストばかりかかって、挙句の果てはあなたがイメージしていたものより悪いものができあがります。「なんで、ちゃんといいものを持って来ないんだ、あそこの会社は?」って、あなたのせいです。

 さて、たいていは後者=「自分には思いつかない・作れないソリューションが欲しいので、他人に頼む」です。
 この場合は、あなたにいい解決策があるわけではないので、そもそも何を解決してほしいのか、その結果どうなってほしいのか、を、あなた自身がはっきりさせなくてはいけないことになります。
 次の項目ではそれを考えてみましょう。

丸投げしない=あなたは、あなたの役割を果たす

 一方の極端が「四の五の言わず、私の言う通りにこういうのを作ってこい」と具体的な指示を出すことだとすれば、もう一方の極端が「なんか、おもしろいもの、持ってきてよ、なんでもいいからさぁ」と丸投げしてしまうことです。(「わたしは丸投げなんてしてない」と、思ってるあなた、もしかしたら、「ほぼ丸投げ」しているかも、ですよ。だって、世の中、これが、すごい多いんだもの。)

 受注側の責任が、発注者の抱える課題に対して有効と信じる解決策を提示し、実現することを手助けすることだとすれば、発注者の責任は、課題をはっきりさせることに尽きるわけです。
 「丸投げ」というのは、諸課題の抽出・発見と主たる課題の決定すらも受注者に任せてしまうことですね。そうしておいて、「いや、それはなんか方向性が違うなぁ、わかってないねぇ」とか言っちゃいけないわけですよ。あんたのビジネスなんだから。
 もちろん、外部ならではの目・視点というのはあって(弊社はそれでお金をいただいている)、それによって新たな発見があったりするのは事実ですが、それも、発注者が考える課題が、発注者なりにはっきりしていてこそ、建設的な議論になるんです。

 ということで、発注者は、外部に依頼するに当たって、最低限、次のようなことをはっきりさせておきましょう。(あるいは、部内・課内で合意を形成しておきましょう。)

  • 自分のビジネスが直面している・これから直面しそうな問題と、今回のプロジェクトによって解決すべき課題
  • それが解決されることによってもたらされる将来像や、社内外に与えるインパクト
  • 「何を」「誰に」伝えるのか(コミュニケーション上の戦略的項目)
  • 自分のビジネスやブランドが、長期的に育てていきたい戦略的な要素

 これがあれば、あとは、外部のプロが「どのように」伝えるのか・解決するのかを考えてくれます。
 あなたがあなたの役割を果たせば、相手は相手の役割を果たしてくれる、というわけです。
 「あの事務所は、いつも同じようなレベルのものしか出せないのかね~?」って、あなたがそうさせてるんです。丸投げ禁止!

 では、こうした情報をどのように相手に伝えれば、全力でいいものを作ってくれるようになるのか。次は、そのあたりを書いてみます。

 

(オリエン、ではなく)ブリーフ、その役目

 あなたの役割=「課題をはっきりさせる」が終わったら、いよいよ広告会社やデザイン会社、あるいはプロモーション会社など受注側の担当の方に来てもらって、解決策の開発の発注をする段階に入ります。
 この時、どのような情報をどのように伝えると、相手が全力でいいものを出そうとしてくれるのか。

 すごく簡単に言ってしまうと、基準はふたつしかありません。

 明確さ・簡潔さ、と、インスピレーション、です。
 そして、順番も決まってて、まず簡潔・明確であること。そのうえ、インスピレーションを与えていれば素晴らしい。明確さが必須条件。

 明確さ・簡潔さは、実は前述の2の項目=課題の明確さのことなので、それができていれば、あとはそれをわかりやすく誤解のないように伝えるだけです。
 注意すべき点があるとすれば、課題が複数ある場合、それぞれの優先順位がはっきりしているか、ですね。「どっちも大事・全部大切」はだめです。
 (クリエーターは、ひとつに絞ってくれ、といいますが、それは正直言って理想論、あるいは、かなりの上級編です。やけどしますので、無理しないように。)
 実際には、解決しないといけない問題が複数あったり、伝えないといけないことが複数あるのは、仕方ないと思います。でも、クライアントが明確にしておくべきは、課題が多すぎないか、と、その優先順位です。それがはっきりしていれば、受注者は、「解決の糸口」をどこに求めればいいかがわかるからです。

 ときどき耳にするのが、「そんなことを言うと、彼らは、優先事項だけを解決するアイディアを持ってきて、他のを無視・軽視するかもしれないから心配だ」という言葉。
 しかし、ちょっと考えてみてください。それって、相手を信用してない、ってことですよね?意地悪な見方をすれば、相手を「ちゃんと理解できない、バカで、無責任なひと」だと思っているともとれませんか?その気持ち、たぶん、伝わっちゃってますよ。
 相手はプロだし、ビジネスパートナーなので、「無視」なんかするわけないじゃないですか。
 「でも、実際に…」と思っているあなた、もしかすると、それは以前から「相手を信用していない」ことが伝わってしまっていて、たとえば相手が「あのクライアントは、あれもこれもって言うから、最初は穴だらけのものを持っていって、いっぱいしゃべらせようか」と思っていたりするのかも知れませんよ。
 まさに、「You get what you deserve to get.」です。

 さて、簡潔で明確、それができたら、80点。それで前に進んでもいいですが、欲張りなあなたは、さらに「インスピレーションを与える」をトライしてみてもいいでしょう。
 インスピレーションを与える=クリエーターをやる気にさせ、発想の手助けをする、ということですが、そもそも彼らの発想を具体的に手伝うのはあなたの仕事ではなく、それは先方の社内の方々の仕事ですので、無理しなくていいんです。
 あなたがやるべきことは、相手に「この課題、なんとかしてあげたい」とか「このひとの夢を実現してあげたい」とか「これを通じて、世の中にインパクトを与えたい=人々の考えや行動を変えさせてみたい」と思ってもらうことです。
 あなたしか知らない、でも、受注者が知りたい情報を、「だから、あなたの助けが必要なんです」というメッセージとともに伝えるということ。

 プロジェクトに関する、あなたの夢を語ってあげてください。
 この場合の「夢」は、DreamというよりはVisionでしょうか。
 (あなたが出世したい、とか、¥XX億もうけたい、とかじゃなくて、)課題が解決されることによってもたらされる将来像や社会や会社に対するインパクトについて、しっかり語りましょう。受注側の「やる気」を左右するのは、金額の大きさや課題の簡単さや、目立つかどうか、だけではないんです。特にクリエーターは。
 夢が常に壮大でなければならないわけでもありません。ましてや嘘をつく必要もありません。
 現実的な、しかし、達成したいことと、その結果。
 あるいは、あなたが本当に困っていることでいいんです。
 それを正直に話すことです。

 「この結果として、いままでのXXXに対する思いこみを変えさせるきっかけを作りたい」
 「1年後、街を歩く多くのXXXがこれを持って歩いているところを目にしたい」
 「このままだと競合にやられっぱなしだけど、製品改良は2年先まで来ない。なんとかここで2年間もちこたえたいので助けて欲しい」

 この他にも、「あなたしか知らない、でも、受注者が知りたい情報」はあるんですが、今回の「ヒント」はここまでにして、そのかわり、「これはやめたほうがいいよ」について、少し書いてみましょう。
 最初に、「(オリエン、ではなく)ブリーフ」と書きました。
 別にオリエンをしてはいけないとか、オリエンという言葉を使ってはいけないという意味ではないんです。つまらないオリエンをするな、と言いたかっただけです。
 私の勝手なイメージなんでしょうが、オリエンと聞かされて想像するのは、自社の自慢話やスペックや機能の説明がだらだらと続くものや、「そこまで決まってるんなら、自社で作ればいいんじゃない?」というような細か~~~い指示が書いてあるものや、プロジェクトが自社にとってどれほど重要なものかが綿々とつづられている、稟議書のコピーみたいなものや、どうでもいい競合や市場の状況がだらだらと分析されていたり…みたいのなんですよね。
 わかるんですよ、気持ちは。悪気があってそうしているわけではないことも。
 きっと、「わからないといけないから、詳しく経緯と背景と歴史と苦労を解説しなきゃ」って思っちゃうんですね。
 でも、8割方「余計な情報」です。
 大丈夫、あなたが苦労していることは、相手もわかってくれてますって。すごく綿密に計画されていることも、理解してくれてますって。あるいは、やむを得ない手だということすら。
 あんまりだらだら説明すると、
 (このひと、つまらなそうな人だなぁ~)とか
 (おもしろいアイディア、わかってくれなさそうだなぁ~)とか
 (重箱の隅をつつくタイプなのかな、プレゼンの資料は細かくしなきゃなぁ~)とか
 (このひと、失敗しても自分のせいじゃないって、言いたいのかなぁ~)とか思われてしまいます。
 「じゃ、無難なものを出しておこう」
 「細部の辻褄があってればそれでいいよね、きっと」
 「前につくったものをコピーしておこう」
 「(他のクライアントの案件のほうがおもしろそうだから、そっちに時間使お!)」

 やれやれ、またしてもいいものが出てこなくなるわけですね。
 ”You get what you deserve to get.”

 外資では、オリエンと言わないことが多いです。オリエンシートのことを「ブリーフ」と呼び、オリエンのことを「ブリーフィング」と呼ぶことが多いと思います。
 別に外資の言葉を使えばいい、というわけではないし、外資のオリエン=ブリーフィングが優れているわけでもない(同じように、ひどい?)。

 ただ単に、「ブリーフ」という単語には「簡潔な」という意味があるので、そのほうが好きなだけです。
 あるいは、オリエンテーションという言葉には「知らないひと・初心者に、注意事項をしっかり教える」みたいなニュアンスがあるような気がして。

 さて、最後に少し違った角度の項目が残りました。
 「コンペなんてやめてしまえ~」です。
 これも、私は何度か書いているし、あちこちでしゃべっていることですが、それを「いい解決策を手にするために」という観点から、たぶん、誰もまともにとりあってくれなさそうですが、書いてみます。
 「そりゃわかるけど、自分ではどうしようもないよ」かも知れません。
 それでも、そこには何らかの示唆なりインサイトなりがあると思いますので、書いてみます。
 「ふ~ん」くらいのつもりで読んでください。

コンペなんてやめてしまえ〜

 (私はコンペが嫌いです。百害あって一利くらいしかない、と思ってます。弊社はコンペのお仕事をお断りしています。そんな人が、なぜどのようにコンペが嫌いかを書いているので、とっても偏った意見です。ご注意ください。)

 まず、第1に…。
 あなたがそうであるように、相手も、失敗から多くを学びます。
 しかし、コンペをやると、その多くを学べるはずの失敗の経験が積み重ならなくなります。
 失敗を目の当たりにした受注者は、次の仕事が来なくなるであろうことを予測しているので、「対処」はしようとしますが、「次のために深く学ぼう」という気持ちは強くなりません。
 しかも、発注者も、真の原因を探るよりも受注者のせいにしたほうが、早いし気楽なので、両者ともに、失敗という最大の学びのチャンスを、みすみす逃してしまうわけです。
 これは、ブランド作りのマーケティングのように、じっくりと時間をかけてやらなければならないものの場合、致命的なロスになります。だいたい、ブランドやそのお客さんについて、深い理解と洞察を有するなんてのは、半年一年でできるものではないですし。
 「なんか、ぱっとしなかったね。あそこは、だめだ。次!」
 そうして、またあなたは、「一緒に失敗し、それを身にしみて感じ、ともに考えてくれるパートナー」を失うわけです。
 また、そもそも、受注できなかった会社にとっては、「失敗」=「失注」であって、マーケットでの結果ではないわけです。
 これが、次のポイントに関係してきます。

 えてして、発注者は、自分のビジネスの課題なので、視野が狭くなってしまっていたり、熱意という名の思いこみに縛られていたりします。そんなとき、課題への取り組みの中で、受注側が、当面の課題や問題のうしろにある、より大きな課題を見つけることは、実はよくあることです。
 ところが、コンペになると、不思議なくらい、「そういうのは、クライアントも耳が痛いからね~。わざわざ嫌われても仕方ないから、やめておこう。見なかったことにしよう」となるわけです。コンペに勝つ、ということは、「発注の担当者・決定権者に気に入ってもらえる」ことと同義だからです。いつも、みんながそうだ、ということではないのですが、そういう気持ちが常に働いている、というのは、知っておいていいでしょう。
 そうして、あなたは、「お客さんが本当に欲しがっているものは、実はこれかも知れません。ぜひ、一緒に失敗してみましょう!」という気概のあるイノベーターと出会うチャンスを逸しているのです。

 最後のポイントは、ちょっと笑ってしまうようなことなんですが、事実なので。
 コンペのオリエンに行ってきた担当者が会社に戻ってきて、メンバーを集めて会議をします。そういうのに参加するチャンスが何度もあるのですが、いつも同じ会話になります。
 この指示の意図はなんですか?これとこれの優先順位は?実はこれが本来の課題じゃないんですか?前回の成功・失敗の要因を、クライアントは何だと考えているんですか?このプロジェクトの次にはどんな手を打つ予定があるんですか?
というような質問をするわけですが、その答えはいつも「さ~、わかりません」です。
 では、それを質問してきてください、と依頼すると、
 「そんな、競合会社が一緒にいるところで聞いたら、相手に聞かれてしまう」
 「そんな質問したら、クライアントに、生意気と思われる」
 「あとで質問しても、クライアントに、競合会社間で情報が公平にならないので、質問には答えられない、と言われる」
などの答えが返ってきます…。

 さて、どうですか?たいして質問も出てこない大きなオリエンを仕切っている、発注者のあなた、自分が裸の王様みたいな気がしてきませんか?
 少なくとも、第三者が、当事者でないからこそ気が付くポイントを突いてくれることで、さらに議論を深めるチャンスを逃しているのは、確実です。

 それでも、きっとコンペはやめられないんでしょうね~、多くの場合。
 でも、ここに書いたようなことが、コンペの陰で起こっていることを知っているだけで、あなたの発注方法はかなり良くなると思いますよ。


 世の中の多くの仕事は、(社内であっても)、受発注の関係の中でできあがっていくものです。
そこには、きっと同じようなインサイトがあるんだろうし、また、同じように、情報と指示と判断の明確さが要求されているんだと思います。さらには、「自分ひとりで考えているより、他人の意見を聞いた方が、いい解決策にたどりつける」はずです。
 ならば、ちょっとでも、「うまく他人にものを頼めるひと」=「より良い結果を手にするに値するひと」になれるように努力してみる、ってことですね。

〝You get what you deserve to get.〟