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株式会社えとじや

マーケティングなんでも相談所

たぶんあなたは「普通のひと」ではない
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たぶんあなたは
「普通のひと」ではない

文 村雲圭・写真 松本卓也

たぶんあなたは「普通のひと」ではない

 例えば商品やサービスを開発しようとするとき、誰もが、「自分ならどうか」ということは無意識のうちに思っていると思います。
 そして「自分がいいと思うもの」を選び、作っていきます。そりゃぁ、少なくとも自分がいいと思わなければ、誰も買ってはくれないでしょうし。
 さて、一見正しいように見えるこの考え方ですが、これが当てはまるには、条件があるのです。

 「ただし、あなたがターゲットと同じ価値観・目線を共有していること。」

 分かりやすいので、ファッション業界でお話しします。
 ファッション業界で働く人は、基本的にファッションが好きで、ファッションに関わりたくて働いている方が多いと思います。皆さんオシャレで、逆にオシャレでないといけないわけですが、そのスタンダードは高い。「当たり前」と思っているレベルが、すでに高いわけです。
 ところが実際に服を購入している人のボリュームゾーン、および、ターゲットにしている・したい人たちは普通の人たちだったりします。この乖離は大きい。
 「普通のひと」向けにいいものを作っているつもりなのに売れない。(普通の人から見たら、オシャレすぎ・凝りすぎなのが分かっていない。)
 「普通のひと」は、オシャレな人に憧れ、もっともっとオシャレになりたい、だから自分たちレベルのオシャレを目指しているに違いない。(別にそれほど思っていない。)
 「普通のひと」は、ダサい。(上から目線。)
 レベルの高いオシャレさん、人口ベースで言うと、かなり少ないと思います。都会のオフィス街、繁華街にしかいないのでは?こうした、自分達と同じレベルで語れる人たちをターゲットにするのであれば、この乖離は起きません。ただし、多くの場合は、ニッチなビジネスになります。

たぶんあなたも「意識高すぎ」さん

 で、この傾向ですが、ファッション、化粧品、車など、嗜好が大きく出るカテゴリーに限らず、どの業界でも起きてしまうことで、なぜなら皆さんはすでに「プロ」・「専門家」(「オタク」とも言える)だからです。
 オレは普通だ!と思うのは、自分の業界以外だけにしましょう。
これまでお会いしたどの業界の人も、業界のジョーシキを持っていて、傍から見ると、なんで?という思い込みと「普通のひと」からのズレが起きています。
 「うちのお客さんはダサくて地味なんですよ~」と豪語する某化粧品メーカーマーケ部。(その態度、お店でばれてるし、広告も上滑りがち。)
汚れが落ちないという不満が高いんだから、正しい洗濯方法をホームページに載せたらみんな喜んでくれると思い込んで、熱心に誰も見ないページを作る洗剤メーカーPR担当。(ホントは、汚れ落ちくらいしか言うことが無いから言ってるだけ。)
 いろんな機能がたぶん39個くらいついているけど、実際使っているのは2つくらい、なうちの電子レンジには、なんと「マーボー茄子」というメニュー機能があることを最近発見!(差別化のための差別化?多機能=いいこと、なわけはないのに。)
 100ページくらいマニアックな分析が続いているが、結局必要なページが3ページくらいしかない大手調査会社の報告書。(みんな調査手法や分析の緻密さに感動するはず!しないって…。いや、調査手法で突っ込まれると困るし?いや、報告書見るんじゃなくてメールか電話すると思うよ。)
 どうだ、すごいだろ、さらに燃費が0.2kmも伸びたんだぞ、と、広告してしまう。(上司に報告して褒めてもらえばいいだけで、お買い物クルマに使う主婦には「なにそれ?」。)
 「高活性バイオEXスーパー」とか「抗菌EX Wパワー」とか「ゴールドaプラス」のネーミング、新しさとすごさを伝えるに違いない!(文字が多いだけで、余計にわかりにくいし。わかりにくい=考えない・見ない=買おうと思わない、という常識がわからなくなっている。)
 女性向けなんだから、ともかく色はピンク。(自分はピンクのものなんて持ってないのに。)
 「なんでわからないんだろう、ちゃんとパッケージに書いてあるのに」と悩み続け、さらに記載を増やす製品開発担当。(パッケージの記載なんて普通読まないし、自分も家電のマニュアルなんか読んだことない。)

 ああ、止まらない…。

 ともかく、皆さんは商品のことを四六時中考えていますが、普通は適当で、それほど興味はなく、なんとなく買っています。そもそも、他にも大事なことやおもしろいこと、気になることがたくさんあるんですよ、人生には。
 しょっちゅう買っている商品でも商品名が分からない、商品名を勘違いしている、違う用途や場所で使っている、使う順番を間違えている、専門家には意味のない組み合わせで利用している、なんてこともいくらでもある話です。
 (「あ~、それは間違った使い方だ、ちゃんと教えてあげなきゃ」すら、上から目線ですね。)
 ということで、自分はもはや「普通のひと」ではないんだ、と諦め、自分の思い込みは捨てましょう。
 代わりに、ターゲットを代弁できるような愛と理解を持ちましょう。

 蛇足ですが、ものすごくよく耳にする「うちの奥さん・旦那さん」、彼らも業界に染まっているリスクがあります。
 女性社員は女性のことが分かるはず、と言って鵜呑みにするのも同じ理由で厳禁です。よく見る「女性だけのチームで作りました」、あれ、PR効果以外はほぼ意味がありません。(女性だろうが男性だろうが、「優秀な人材だけのチーム」を作ったほうがいいに決まってるわけです。)
 また、同じ女性でも、フルタイムワーキングマザーと普通の主婦は、お互いがお互いの生活を想像すらできないほど違いますので、「分かっているつもり」にご注意を。