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株式会社えとじや

マーケティングなんでも相談所

珍しく失敗談をお話しましょう
MARKETING

珍しく失敗談を
お話しましょう

文 岡本晋介・写真 松本卓也

 失敗談~私自身の手痛い失敗のお話を。
 もうずいぶん前、30年くらい前ですね。
 あとから考えてみるとばかばかしいくらい基本的な間違いばかりの事件でも、自分としては「教訓だらけ」な体験でした。
 先に「教訓」の一部を列記しておきましょう。

  • 「なんとなくそういうものだ」というカテゴリの「常識」に流されるとろくなことはない
  • むしろインサイト・発見はそこにある
  • 「失敗」には、ちゃんと「失敗のニオイ」があって、せっかく体験したんだったら、これは覚えておくといい
  • 「あ、やっちゃったかも」と思ったら大急ぎで元いたところに戻れ

そして、当然ですが、

  • ともかくターゲットのことをちゃんと理解してないと何もできない・すべきではない
  • 「イメチェン」は痛い。ブランドの分をわきまえて、その使命を果たせ

 のふたつは外せません。
 今や、えらそうにこの2点をブログでもセミナーでも口酸っぱく繰り返していますが、それは、実はこの失敗の経験があったからこそなのかも知れません。
 さて、では始めます。長くなります、すいません。

失敗のはじまり、あるいは、序の口

 満を持してリニューアルしたブランドが、全く売れてくれません。出荷量は発売前に比べて2~30%減少、シェアなどを見ていると、さらに下がるかも知れない勢いです。そんなブランドのブランドマネージャーが、私でした。
 当初は流通在庫の問題ではないか(じゃ、値段を下げろ)、とか、価格戦略の間違いではないか(だから、値段を下げろ)、競合がすごいことをやってきているんじゃないか(ほら急げ、値段を下げろ)、とかいう、「ありがちな」、理由にもなってない理由で、みんなで会議のお茶をにごしていましたが、やがて「それにしても、こいつはひでぇや」という状況になり、お茶もにごりません。当然のように、根拠のない・希薄な「これが原因なのではないか?」空論が繰り広げられ、やがて「誰のせいだ」ケンカが始まり、この手のケンカが常にそうであるように「マーケのせいだ」ということになり、でもさっぱり理由がわからないので、「ともかく原因を探れ」にぐるっと戻ってくる…その間もビジネスは下がり続けます。
 しかし、おかしいんです。売れないはずがないんですよ。

  • まず、このブランド、そのカテゴリの先駆け的な誰もが知っているブランドで、リニューアル前、競合の1・5倍近いビジネスがありましたから、いきなり2~3割もビジネスが落ちるようなサイズではない。
  • 製品は、すでに何度もテストしていて、ユーザーさんたちはもちろんのこと、競合製品や他社一般品を使ってる方の間でも明らかにいい評価を得ている。
  • ずっと問題とされていた「香り」も、誰もが好きと言ってくれる香りに改良済み。
  • 広告も、無名とはいえ、すごく髪のきれいな若いタレントさんを使って、当時、結構有名だったクリエーターさんたちに手伝ってもらって、なんだか分不相応な音楽も使って。広告評価テストでも、歴代のそのブランドの広告並みのスコアは取れてました。
  • そして、実はこれが今回のリニューアルの最大の目玉だったのですが、新しいパッケージデザインは、消費者テストで現行品に対しても競合品に対しても、目を見張るようないいスコアで圧勝しているのですよ。それまで、「ヘアケア製品じゃないみたい・洗剤みたい・きつそう・男性用ですよね・だっさ~~~~~い」と散々だったデザインがですよ、「好きです」って言ってもらえるデザインに変わったんです。
  • 価格も取扱い店数も、山積みやチラシの頻度も、以前と大差ない。
  • 競合も特に大きな活動をしているわけではない。

 売れないはずはない。
 なのに、売れない。

失敗の正体、の尻尾

 ヒントというか、解決につながる(はずの)長い長い道のりの「糸口」みたいのが見つかったのは、やっぱり定性調査でした。
ヘアケア製品なので、グルインはいつも20代の学生と独身のOLさんを中心にやっていたのですが、その時は、「まぁたまには主婦もやってみようよ」と30~40代の主婦の方々に集まってもらって…すると、ある女性が、
 「私、結婚してからずっとリジョイというシャンプーを使ってて、特に子どもができてからは、もうあれじゃないとね。でも、最近売ってないですよね?廃版かしら?ねぇ?」
 (いえいえ、廃版じゃないし、あなたの街のGMSでもドラッグでも売ってますってば、おばさん!)と、当時は20代だった私…「おばさん」だなんて、失礼なもんです…。
 「でも、ちょっと待てよ…。なんか、これ初めて聞いたわけじゃない気がするなぁ」
 と、思い至って、お客様相談室にかかってくる電話のリストをもう一度見てみたんですよ。すると、同様の相談が、まさに異口同音というやつで、結構上がってたんです。「見つからない」、「近くで売っている店を教えてほしい」、「前のを手に入れたい」などなど。
 こいつはもしかすると『リニューアルし過ぎて』(!!)見つけてもらえなくなったんじゃないか?
 そういえば以前から、「電話リサーチで『リジョイ使ってます』の数字がいつもシェアよりずっと高いのは、そふといんワンと見分けがついてないおばさんたちがいるからだ」って、話してなかったっけ???
 おばさんたちは、シャンプーなんかに対する関与度が下がっているから、こういうおしゃれなデザインにしちゃったので、おしゃれ過ぎて気づいてないんだ!
 おばさんたちも、愛用してくれてるユーザーさんなんだし、ともかく今はデザインを戻そう!
 (実はここでさらに大きな間違い=大失敗のもとをしでかしてるんですが、それは後ほど。)
 ということで、急きょ、さらに大枚をはたいて、パッケージデザインを前のものと新しいものの間くらいに戻しました。とはいえ、余裕で半年以上経過していましたし、すでに倉庫にも店頭にもわんさか在庫があるので、実際に切り替わるにはさらに時間がかかってしまいます。
 そして、その他、広告など、ともかく可能な限り、「元に戻す」努力を続けました。
 しかし、失ったビジネスは帰ってきませんでした。
 ただ、下げ止まりました。いくらかは、昔のユーザーさんが戻ってきてくれたようでしたね。
結局、大規模なリニューアルと分不相応な投資の末、売上は30%以上減少、利益は…、マーケットのポジションはNo.5クラスからNo.10クラスへ、サブカテゴリのリーダーを、その間何もしなかったそふといんワンにとってかわられただけ、でした。

失敗の正体、のニオイ

 いやはや、書いてて恥ずかしくなってきますが、ひどいもんです。
 こういう「はっきりした理由がわからないけど、何かが決定的におかしくて、放っておくとそのままどんどんとめどなく状況が悪くなっていくとき」というのが、ビジネスにはありまして、これ以外にもいくつか経験しているんですが、そういうときには、ある種の「ニオイ」がします。こればっかりは論理的に説明できることではなく、自分で経験しないとわからないので、わからないひとには「???」だと思いますが、大きな失敗を経験した方は少し考えてみると思い当たる節があるかも知れませんね。
 この「ニオイ」は、覚えておくといいです。同じ「ニオイ」に出会ったら、四の五の言わずに、できる限りのスピードで、ともかく元いた場所にいったん戻る。
 そのニオイは、なにせ「ニオイ」なので、データなどではっきり見えません。見えてるのは、じわじわ下がり続ける出荷量だけ。
 それは、例えば組織内の雰囲気だったり、なんとなくみんなが「私のせいではないけどね」って言ってるような感じだったり、定性調査で出会う人たちの話しぶりだったり、気遣いだったり、なぐさめだったり、以前の担当者たちの目だったり、優しすぎる口ぶりだったり、広告会社の担当者が私より先に言ってくれるいいわけだったり。そういうところから醸し出されるニオイ。
 私が勝手に思っていることですが、これは、ブランドとお客さんが、マーケターに「あんた、やってること全然違うよ」って言っているときに出るニオイなんじゃないかな、と。
 さてさて、こういうことはなんでも後になってわかることですが、まず、パッケージテストは、何のことは無い、テストでも何でもなく、ただの「デザイン人気投票の集計結果」だったんですね。
 一見、総合評価は高いけれど、そのブランドの強さとは無関係な、「もっとも当たり障りのない」もので、(当時人気だった)す~ぱ~まいるどのデザインによく似てるので、「嫌いという人がいない」だけのことだったわけです。
 あとで定性調査をしてみて、痛いほどわかりました…。手遅れでしたが。
 「ふ~ん、別にそれでいいんじゃないですか~」って言われてたんですね。
 大金つぎ込んで作った広告は、そもそもベネフィットが間違っていて、「そりゃそうだけど、あんたにそんなことできるわけないじゃない」ってことだったわけです。あくまで一般的に重要度が高い、カテゴリのベネフィットであって、誰もそれをリンスインシャンプーで得ようなんて、もうとっくに思っていないベネフィットだった。
 リンスインシャンプーがトレンドだったのは、90年代頭までで、お客さんたちがその製品機能に夢と期待を抱いてくれていた時代もそろそろ終わっていて、どちらかというと「やっぱりだめだよね」なカテゴリになり始めていた。
 それとは別に、実は、実は、もっと大切な役割があったのに、私たち自身がそれを無視していたんですね。恥ずかしいことですが。
それが、実は、この大失敗の元凶だったんです。

失敗の元凶

 シャンプーというカテゴリは(当時は)、ターゲットといえば、何も考えずF1だったんです。(F1なんて言い方はしませんでしたが、P社では。)ともかく、20代の女性に気に入ってもらわないとだめで、20代の女性にOKしてもらったら、マーケターの仕事は終わり、だったんです。
 どうしてか?「そういうものだから」です。
 みんなそうしているからそうしていた、だけで、理由はありません。(まぁ、しいて言えば、消費量・額が少し大きいのと、トレンドを作る年代であった、とは言えますが。)
 広告も、10~20代(30代前半)の髪のきれいなタレントさんが出てくる、と決まっていたんです。ジェニファー・コネリー、小泉今日子、薬師丸ひろ子、石田ゆり子、鶴田真由、若村麻由美に鷲尾いさ子ですよ。(古っ…。)
 しかし、リジョイを含むリンスインシャンプーには、それをとても大切に考えてくれている人たちがいました。
 現象面でとらえると、「忙しく生きていてヘアケアを手早く済ませたいと考えているひと」、すなわち多くは小さい子どもさんをお持ちのお母さんや、結婚して間もない共働きの女性など、でして、もちろんそれはわかっていました。
 でも、そこで止まってたんですね。それでわかったつもりになっていました。
 それで、そのひとたちを「きれいでいることに時間も金も遣えない・遣いたくないかわいそうなおばさんたち」だと思っていた、ということです。あ~、情けない…。
 なぜ、その女の子たちが求めているのはちょっと違う種類の「きれい」だ、と考えられなかったんでしょうかねぇ。
 なぜ、もうおばさんだし「忙しい」から「サボっている」ではなく、「忙しい」というのは「大切なことがたくさんある状態だ」と理解できなかったのか…。
 しかも、その人たちは、普通にグルインで話すと、「ちゃんとしないといけないのはわかっているんですが、時間に余裕がなくて、仕方なくリンスインシャンプーを使っています」って言うんですよ。で、「はいはい、また言い訳してるよ」って聞いてました。
 なぜ、女の子が自分の髪に使うものをどうしてこんなふうに申し訳なさそうに話さないといけないんだろう、なんとかしないと、と思うことができなかったんですかねぇ。
 あ~、情けない。
 グルインのやり方を少し変えるだけで、彼女たちがイキイキと、誇りをもって、自分たちの生き方や「きれい」について話してくれる、ということに気付いたのは、もう会社がさらなる投資を許してくれない状況になってからでした。
 ベネフィットもエクイティーも、広告も、プロモーションも、いくらでもちゃんとしたいいものが作れたのに。
 と、やはり長い文章になってしまいました。まだまだ語り足りないんですが。
 もちろん、話をわかりやすくするためにいろいろ端折ってますが、おおよそこういうことだったというのはホントです。