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株式会社えとじや

マーケティングなんでも相談所

極意のフレームワーク 2.捉えられることの限界と可能性を知る
MARKETING
お。れ流マーケティング、極意のフレームワーク!

2.捉えられることの
  限界と可能性を知る

文 岡本晋介・写真 松本卓也

 さて、次は、そのもうちょっと先にある「じゃ、どうやって捉えるの?」みたいな話を、調査を例に書いてみたいと思います。(どうして弊社が定性調査、それも特に訪問調査が好きか、というのもご理解いただけるかと。)

~ひとを「捉える」ことの限界と可能性を知っておく~

 もう少しぶっちゃけて言うと、調査でわかること、わからないこと、考えて深読みすべきこと、ということになるでしょうか。ホントは調査だけじゃないんですが、わかりやすいと思うので、調査で話を進めてみます。
 当たり前の話、調査はそのやり方によって、何がわかるかが違うということなんですが、調査そのものだけでなく、それを利用し、分析・理解するマーケター自身の考え方・行動・能力=深読みできる力に関わることなんだと思います。

「ふるまい」しか見えないから

 とても大事な、まず、肝に銘じておかないといけないことは、
「ひとが話すこと(Behaviorの一部)は、そのひとのあたま(Mind=理解・解釈)を通って選択され加工され発信されたものである」
 ということです。
 つまり、そのひとの、ほんの一部に過ぎないのです。

 ことばとは、様々な情報(理屈だけでなく、感覚・感情・価値・記憶などを含む)をMindが翻訳したものを外に発信(Behavior)したもの。
 しかも、そのひとの意志によって。
 なので、「感覚や感情に関することば」というのは、聞く・読むことができますが、それは決して感覚・感情そのものではない。
 だから「言ってることとやってることが違う」のは、「おかしい」のではなく、むしろ「当たり前」と考えるべきなのかも知れません。
 例えば、調査でよく出会う「『いいですね、買おうと思います』と答えても、買ってくれない」。
 これには、様々な可能性があります。あげるとキリがないんですが、例えばをいくつか。
 インタビューやアンケートを受けた時点、その状況(家だったり調査会場だったり)においては「悪くないなぁ」くらいは思っているが、店頭やネット通販の場面ではなく、お金を支払うかどうかの判断を迫られていないのでそう答えていても、実際には競合との比較や、価格に見合う価値があるかどうかなどの判断において、「買う」をはじいてしまう「何か」がある、という場合。(状況だけではない「何か」が大事。)
 それにしても、「絶対欲しい~~~!!」ってHeartが動いてくれていたら、もう少しPositiveな反応・ことばが出てきたかも知れないですね。
 いや、実は、さほどいいとは思っていない。しかし、調査対象者さんって、やさしい人がほとんど。なので、なるべく「いいですね」って答えてあげたいわけですよ。
調査における「いいですね」は、子どもが描いた絵を見たオトナが「あら上手ね~」って言ってしまうのと同じ…と思っておいたほうがいい。
(全く同じ動機で、さほど重要だと思っていなくても、たくさん文句をつけてくれる対象者さんも、たくさんいらっしゃいます。せっかくの調査なんだから、たくさん指摘してあげなきゃ、と。)

 つまり、調査、特にアンケート調査のようなもので、知ることができるのは、こうして生み出された「ことば」=対象者が選択した判断だけなんです。

んじゃぁ、どうすればいいのよ!?

 ひとつには、ともかくたくさんやる、という解決法があります。100人中何人が「買いたい」と答えたかを、ともかく大量にテストしてデータベース化していけば、やがて、「このカテゴリで、この調査手法で、これくらいの点数が取れたら、そこそこ売れるかも」という結果を得られるようになります。が、しかし、それも「かも」です。お金と時間と労力がかかって、しかも最初のうちは、テストするだけで結果は使えないし。データベースを持っている調査会社さんにお願いする方法もありますが、これもお金がかかる。そして、私自身何度も何度も経験していますが、いい結果を出したからといって、実際に売れるとは限らない。20個あるアイディアを3~5つに絞るみたいなことには向いていますが。
 ま、調査大好き大企業向きの解決法ですね。

「どうすればいいのか」に対する答え、精神論みたいに聞こえるといやなんですが、「ことばとは、そのひとの意志のもとに、あたま(Mind)で生み出され、選択され、発信された判断(Behavior)だけだ、と知ること」。いつもそれを前提において考えるということ。
 そして、そのうえで、
□察する力=深読みする力を身に着けて、ことばだけに頼らなくても判断できるようになること、そうすることで、
□得るべき反応が得られるように正しい質問・観察ができるようになること
 の繰り返し。
□(さらに、えとじや全員が、ブログで何度も何度も何度も書いてますが、調査結果とは、あなたが考えるためのヒントであって答えではない、と知っておくこと、ですかね。)
 アンケート調査などの定量調査で得られる反応は、(特殊な手法を除けば)ほぼ「ことば」の領域です。
 なので、表面的な、本音からはほど遠い結果だけで終わらない、効果的な定量調査をするためには、正しい質問ができなければならない。
 定量調査を設計するためには、いい仮説が立てられていないといけない。
 ちゃんとした仮説を立てて、正しい質問を組み立てるためには、そのひとたちの、あたま・Mind以外の部分を含めて理解していなければならない。
 顕在しているニーズの順番をつけるだけでいいなら、そこまでしなくてもいいかも知れませんが、いまどき、そんな調査なんて「で?」って結果しか出てこないので、ともかく、彼ら・彼女らの経験や感覚、感情、ひいてはこだわりや価値観を知りたい。そうしたもので、ターゲットを絞り、理解したい。
 だからまずは定性調査的な理解が必須、なんですね。

定性調査は聞くより、見る・察する・考える

 でも、定性調査で、ひたすら対象者の発言をメモっているひと、すぐにやめましょう。そんなことにエネルギーを使うのではなく、みなさんの表情やしぐさ、身に着けているものを観察してください。
「いいですね」が、どういうニュアンスの「いいですね」なのか、きちんと探りましょう。
 感情は、しぐさや表情に出ることが少なくありません。
 グループの中で、ひとりだけ違う話題にずれていってしまう人がいたら、(なんだこのひと、他人の話聞いてないじゃん、いけてない対象者だなぁ)じゃなくて、もしかしたらそこに彼のたましい(主義や価値観)に触れる何かがあったのかも知れません。
 訪問調査やお買い物同行調査などの観察系の調査が優れているのは、ことばにならない・しない部分=感覚や感情、価値観みたいなことに触れられるチャンスが、会場での調査より・圧 ・倒 ・的に多いからです。手間はかかりますが、手間の幾倍もの情報を与えてくれます。
 持っている洋服、冷蔵庫の中、玄関の様子、靴の数、壁に貼られたカレンダーや写真、隣の部屋の片づけ具合、食卓の椅子の配置、テレビやパソコンの置き場所、ティッシュにカバーがしてあるか、カセットコンロが取り出しやすい場所にあるか、洗面所の棚、トイレの窓の造花……。
 何を見ながら話すのか、楽しそうに話すのか、生ごみをどう処理するのか、どこを見て歩いているか、どの順番にお店の棚を回るのか、パッケージの裏を見る買い物と見ない買い物、でっかいディスプレイがあっても「売ってませんね」と通り過ぎる、これはドラッグで買うけどあれはスーパーで買う、値段を気にするって言っててもコンビニで買ってしまう…。
 深読みのタネだらけです。
 オンラインの調査でも、部屋の中などを撮影してもらいましょう、楽しいですよ。
 また、会場での調査であっても、ことばにされること以外に触れるチャンスを作ってください。
 一番のお勧めは、それが許される場合には、あなたも調査会場に入って、同席することです。生で感じられますから。
 質問するだけではなく、写真や絵を使って説明してもらうようにすると、気分とか感情が出やすくなります。
 それが調査に関連しそうで、許してもらえるなら、カバンやポケットの中身を出してもらうのは、とても参考になります。(あるいは、スマホの中身をちょっと見せてもらう。)

「知りたいこと」と質問

 もうひとつ、定性・定量に関わらず注意すべき点は、「知りたいこと」をそのまま質問にしてしまわないこと。
 知りたいことを知るために、一番効果的な質問(群)は何かを考える。
 商品の機能が理解しやすくて、十分に魅力的かを知りたいから、「わかりますか?」、「買いたいですか?」と聞いてしまう。パッケージデザインが好きかどうかを知りたいから、「お好きですか?」と聞いてしまいたくなる。
 しかし、自分が対象者の立場になって考えたらすぐわかると思いますが、ほとんどのひとにとっては(別に、どうでもいい)か(そんなの聞かれても困る)か(ま、使いやすければそれでいいんじゃないの?)なわけです。たとえ実際には、デザインの好き嫌いが購入を左右していても、です。
 だから彼女たちは「使ってみた友達の評判を聞いてから、近くで売っていて、手ごろな値段で、今使っているものがちょうど切れていたら、買うかもしれません」と答えるのですよ。(彼女たちの答えがつまらないんじゃなくて、あなたの質問がつまらないんです。)
 そんなことを聞くよりも、せめて例えば「これを見てどんなことを想像しますか?」とか「何を連想しますか?」とか聞いたほういい。そうすると、少しは感覚や感情に近い何かが出てくる可能性が高まります。

 話が調査に偏ってしまいましたが、こうしたことはマーケティングの戦略やコンセプト、コミュニケーション施策などの開発でも同じです。
 最初に買った理由として記憶に残っているのは、「しわを改善してくれる(かもしれない)から」だった化粧品、つまり、Mindが価格に見合う、試してみるべきと判断したこと。
 その化粧品が気に入っている理由は、「使い心地・使用感がいい」から、つまり、Senses・感覚。別にしわが減ってきているかどうかではない…。
 そして使い続ける理由は、「(またいろいろ考えたり試したりするの、大変だし、面倒だし、しばらくこれでいいや)」というHeart・感情。使い続けることでしわが改善されるからに違いないと信じているからではない。
 そして、「化粧品以上に大切なことが、今の私にはある」というようなSoul・こだわりだったり。
 とかね。

ひとを「捉える」ことの限界と可能性

「ひとが話すことは、そのひとのあたまを通って選択され加工され発信されたものである」
 質問して答えてもらえることは、結局、ことばというBehavior・ふるまいに過ぎない。
 正しい調査と質問をしない限り、Mind・あたま以外の部分を引き出すことはできない。
 それでも、本人が意識的に選んだことばしか出てこない。
 これが「捉えることの限界」。

 しかし、観察すれば、ことばにならない・なっていない・しない部分を察することはできるし、(思わず)ことばにしてしまうような質問ができれば、表出しているMind部分以外のことがわかる、見えてくる。
 結局は、あなたも調査対象者~消費者・生活者も「ひと」なんだから、ひととひと、と考えれば、わかってあげられること、わかってもらえることは、Behaviorとしてのことばよりも、もっともっと多い。
「察する力=深読みする力を身に着ければ、ことばだけに頼らなくても判断できるようになる」
 それが「捉えられることの可能性」です。

 だからマーケティングの仕事は楽しい、やめられない。